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鳥取地方裁判所 昭和54年(行ウ)1号 判決

原告 渡辺恒男

被告 鳥取県知事 鳥取県 境港市

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  (第一順位の訴)

(一) 原告と被告県知事との間で、同被告が昭和四四年三月二九日付売渡通知書で永井譲に対し別紙目録記載の土地につきなした売渡処分は無効であることを確認する。

(二) 訴訟費用は同被告の負担とする。

2  (第二順位の訴)

(一) 被告県、被告市は原告に対し各自一三九〇万円を支払え。

(二) 訴訟費用は右被告らの負担とする。

(三) 仮執行宣言。

二  被告県知事

1  (本案前の申立)

(一) 本件第一順位の訴を却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  (第一順位の訴の請求の趣旨に対する答弁)

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

三  被告県(第二順位の訴の請求の趣旨に対する答弁)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言。

四  被告市

1  (本案前の申立)

(一) 本件第二順位の訴を却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  (請求の趣旨に対する答弁)

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  第一順位の訴の請求の原因

1  被告県知事は昭和四四年三月末ころ鳥取県境港市農業委員会(以下市農業委員会という)の農地法三八条の規定による進達に基づき、別紙目録記載の土地(同法三六条一項本文に規定する所管換を受けて同法七八条一項の規定により農林大臣が管理する農地のうち同大臣が定めたもの「以下本件土地という」)につき売渡の相手方を訴外永井譲、売渡期日を昭和四四年三月一日とする同月二九日付売渡通知書を同人に交付して売渡処分(以下本件処分という)をした。

2  (無効確認の利益)

(一)(1)(イ) 原告は次の(二)のとおり本件土地を国から無償で貸与を受け、現実にこれを耕作していたのであるから、農地法三六条一項一号に規定する「その土地が小作地であり、現にこれを耕作をする者で、自作農として農業に精進する見込があるもの」として、第三者に優先して、本件土地を国から売渡を受ける適格を有している。

(ロ) 仮に原告が本件土地につき使用貸借による権利を有していないとしても、原告は後記のとおり本件土地の旧所有者であり、かつ本件土地を開墾し、事実上継続して耕作していたのであるから、同項三号に規定する「自作農として農業に精進する見込がある者」として本件土地の売渡を受ける適格を有している。

(2) ところで、本件処分は後記のとおり無効であるのに、被告県知事は本件処分が適法かつ有効であると主張して、本件土地を原告に売り渡すことはできないと争つている。

(3) したがつて、原告は本件処分の無効確認を求める法律上の利益がある。

(二) (原告の買受申込適格)

(1) (本件土地の地番の表示等について)

(イ) 別表のとおり、四二五四番と四二五三番の各土地が存在した(以下同表記載の各土地の地番に「旧」を付加して、その各土地を表示する)。

(ロ) 国は昭和二五年五月一日旧四二五三番の土地を松本辰郎に対し、旧四二五四番の土地を原告に対しそれぞれ自作農創設特別措置法(以下自創法という)四一条の規定により売り渡したが、昭和二八年三月二四日右各土地を買い受け、同日大蔵省名義に所有権移転登記を経由した。そして右各土地につき別表のとおり分筆登記が経由された。次いでそのうち、旧四二五三番二、旧四二五四番二の各土地については、昭和四四年三月一日所管換を原因として、昭和四八年六月六日農林省名義への登記名義人表示変更登記が経由された。

(ハ) 旧四二五三番二、旧四二五四番二の各土地の登記簿は別表のとおり閉鎖され、国は右各土地を一団として、別紙目録のとおり表示し、昭和四八年九月一九日農林省名義に所有権保存登記を経由した。これが本件土地の登記簿上の表示である。

(2) (旧四二五四番の土地の所有関係の変動)

原告は、終戦前、旧四二五四番の土地を小作し、前記のとおり自創法四一条の規定により売渡を受けて耕作していた。ところで国は昭和二八年三月二四日右土地を駐留軍通信施設用地として使用するため買い受けたが、その後、現実に国及び駐留軍はその大半を右用地として使用しなかつた。

(3)(イ) (旧四二五三番と旧四二五四番の各土地の一部についての使用貸借による権利について)

右各土地を含む周辺一帯の土地は駐留軍によつてA地区とP地区に分けられ、駐留軍の基地施設用地となり旧四二五三番、旧四二五四番の各土地はP地区内にあつた。

(ロ) A、P地区は右(2)と同様に、国が買い受けたが、国は旧四二五三番二、旧四二五四番二の土地を現実に使用していなかつた。当時食糧事情が悪かつたため、当時の境港市長を中心とする原告らは、呉調達局(不動産部長前田)に対し昭和二九年A地区の土地につき、昭和三三年P地区の土地につき使用させるよう申し入れ、その承諾を得た。

(ハ) そこで原告はP地区内に存在する旧四二五四番の土地の一部と隣接の旧四二五三番の土地の一部(以上の各土地部分は旧四二五四番二、旧四二五三番二の各土地に相当する。なおこれらが後日本件土地となつた)を耕作した。

(ニ) 原告が昭和三九年末ころ中国財務局鳥取財務部大蔵事務官小若寿奈男、同伊藤馨に対し、本件土地の賃料を支払う旨申し入れたところ、右両名はP地区の土地の賃料算出方式が決まらず、かつ右土地を売り渡す計画もあることであるから、無償で耕作してもよい旨返答した。

(ホ) 引き続き被告県農務部の吉田係長外一名が本件土地の耕作状況を調査し、周辺の未墾地の買受希望者に対し該土地を開墾するよう指示した。

(ヘ) かように、原告は遅くとも昭和三三年ころから昭和三九年末ころまでの間に、国から本件土地を耕作に供するため無償で借り受けた。

(4) (買受申込のいきさつについて)

(イ) 昭和四一年ころからA、P地区の土地の耕作者は、右土地を農地として買い受けようとして、農林省と折衝を重ねた。昭和四三年に右土地につき大蔵省から農林省への所管換申請がなされ、右耕作者と市農業委員会は買受に必要な準備をした。

(ロ) 原告は旧所有者又は使用貸借による権利に基づく耕作者として昭和四二年中に本件土地についての買受申込書を市農業委員会に提出した。

3  本件処分には、次のとおり重大かつ明白な瑕疵があつて、無効である。

(一) (買受申込者についての瑕疵)

(1) 市農業委員会から被告県知事への進達書類には、売渡の相手方の氏名として、当時の三軒屋農事実行組合(以下実行組合という)長・永井謙の子の「永井譲」と記載されていたが、真実の買受申込者は同人ではなく、実行組合又はこの組合員である三軒屋部落(鳥取県境港市小篠津町内の一部の地区)の住民であり、当時団体への売渡が認められていなかつたので、便宜上永井譲の名義を利用したにすぎない。右進達に従つて、本件処分の売渡通知書にも売渡の相手方として永井譲の氏名が記載された。かように買受申込者でないものに対してなされた本件処分には瑕疵がある。

(2) のみならず、永井譲自身も、本件土地を買い受けて、耕作する意思がなく、かつ過去において、本件土地と何らのかかわりもなかつた者であつた。

(3) 市農業委員会及び被告県知事が永井譲を売渡の相手方と決定したことは、処分の裁量権の行使の範囲をこえ、その濫用にわたるものである。

(二) (売り渡すべき土地の特定についての瑕疵)

右進達書類及び売渡通知書には、売り渡すべき農地の所在、地番、地目及び面積が別紙目録記載のとおり記載されているが、当時かかる表示の土地は存在していなかつた。前記2の(二)の(1)のとおり昭和四八年九月一九日に至り始めて別紙目録記載のように表示された土地が登記簿に現われたにすぎない。かような方法で土地を表示した本件処分には、売り渡すべき農地の特定方法に瑕疵がある。

(三) (市農業委員会の進達手続についての瑕疵)

(1) 本件土地の耕作者は原告一人であるから、右土地の買受申込適格者は原告だけであつた。

(2) 三軒屋部落で農業に従事していた訴外渡辺幸栄、同永井邦夫、同足立斉も順次本件土地を実行組合の所有に帰属させようとの企図のもとに買受申込をし、原告の買受申込を妨害したが、その後その申込を取り下げた。

(3) しかし実行組合又は三軒屋部落は前記のように、本件土地の所有権を取得しようと企図し、永井譲の個人名義を使用し、買受申込書を市農業委員会に提出した。

(4) 市農業委員会の委員中には、右部落から選出された委員がいた関係上、市農業委員会は原告の買受申込を排除して、実行組合又は三軒屋部落のため、不法にも便宜を計ることを企図し、買受適格者の選定について実質的な審理を行わず、永井譲を売渡の相手方として、被告県知事に進達した。

4  よつて原告は、被告県知事との間で、本件処分の無効確認の裁判を求める。

二  第二順位の訴の請求の原因

1(一)  前記一のように、市農業委員会の委員は、故意に、被告県知事に対し、原告を本件土地の売渡の相手方として進達せず、その結果、原告の有する本件土地の所有権を取得できる権利を違法に侵害し、原告に損害を加えた。

(二)  市農業委員会の委員は国の公権力の行使に当たる公務員であり、被告県、被告市はいずれもその費用を負担する者である。

(三)  したがつて、被告県、被告市は国家賠償法三条一項の規定により、原告に対し連帯して損害を賠償する責任がある。

2  原告の被つた損害は、次のとおり一五二七万七八四五円である。すなわち本件土地の時価は一五二九万円(一平方メートルあたり一万一〇〇〇円)であり、これから、原告が国から本件土地の売渡を受けたとすればその対価として支払う一万二一五五円を差し引いた残額一五二七万七八四五円が損害金額である。

3  よつて、被告県、被告市に対して右2の損害金一五二七万七八四五円のうち一三九〇万円を連帯して支払うよう求める。

三  第一順位の訴に対する被告県知事の本案前の主張

1  原告は第一順位の訴につき行訴法三六条に規定する無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者ではない。すなわち、原告が農地法三六条以下の規定に基づき国に対し本件土地の買受申込をすれば、国が原告に対し本件土地を売り渡す義務がある場合に限り、原告は本件処分の無効確認を求める法律上の利益を有するものである。しかし仮に本件処分が無効であるとしても、次の2のとおり国は原告に対し本件土地を売り渡す義務を負つていない。

2(一)  原告は農地法三六条一項一号に規定する売渡の相手方に該当しない。すなわち、

(1) 本件土地は「同項本文に規定する所管換を受けて同法七八条一項の規定により農林大臣が管理する農地」である。

(2) しかし原告は後記のとおり本件土地につき使用貸借に基づく権利を有していないから、本件土地は小作地でない。

(二)(1)  原告は同項三号に規定する「自作農として農業に精進する見込があるもの」として、本件土地の買受申込ができるにすぎない。この場合には、国は本件土地を原告だけに売り渡すよう拘束されない。

(2)  同項三号による売渡処分の相手方は同一項一号による場合と異なり、被告県知事が土地の農業上の利用を増進する行政目的に即し、政策的技術的な考慮に基づいて決定するものであり、その裁量に属するのである。したがつて買受申込があつても、これに対し機械的に売渡をしなければならないものではなく、売渡をするか否かは被告県知事の自由裁量に委ねられている。

(3)  本件土地につき、同三号に該当するものとして、原告と永井譲の両名から買受申込を受けた被告県知事は、同条一項本文により本件土地につき永井譲を同項三号に該当するものと認定して同人に対し本件処分をした。

(4)  原告は本件土地につき買受申込をして本件土地の売渡処分の相手方となり得る形式的要件を備えているが、本件処分が仮に無効であるとしても、本件土地が原告に売り渡されるか否かは不明であるから、本件処分の無効確認を求める法律上の利益を有しない。

(三)  仮に本件処分が無効であるとしても、本件土地はすでに宅地化されているので、原告は国に対し同法三六条以下の規定により買受申込をすることはできない。

四  第一順位の訴の請求原因に対する被告県知事(及び被告県)の認否並びに主張

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)(1) 同2の(一)の(1)の事実中、原告が耕作していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(2) 同(一)の(2)の事実は認める。

(3) 同(一)の(3)は争う。

(二)(1) 同2の(二)の(1)の事実は認める。

(2) 同(二)の(2)の事実は認める。

(3)(イ) 同(二)の(3)の事実は否認する。

(ロ) 仮に本件土地につき国と原告との間で使用貸借契約が結ばれたとしても、農地法三条の規定による許可がないから、無効である。

(4)(イ) 同(二)の(4)の(イ)の事実は不知。

(ロ) 同(4)の(ロ)の事実中、原告が本件土地の買受申込書を市農業委員会に提出したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3(一)(1) 同3の(一)の事実は否認する。

(2) 本件土地の真実の買受申込人は永井譲であつた。

(二)(1) 同3の(二)の事実中、各書類の記載内容は認める。

(2) 本件土地は昭和四四年三月一日当時未登記であつたが、被告県知事は本件土地を別紙目録記載のとおり表示したものであり、売り渡すべき土地は十分に特定されていた。

(三)(1) 同3の(三)の(1)の事実は否認する。

(2) 同(三)の(2)の事実中、渡辺幸栄ら三名が買受申込をし、その後これを取り下げたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(3) 同(三)の(3)の事実中、永井譲名義の買受申込書が市農業委員会に提出されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(4) 同(三)の(4)の事実は否認する。

(5) 市農業委員会は、被告県知事に対し、永井譲を売渡の相手方として適法に進達した。

4  本件処分の有効について―本件処分の経過―

(一) 昭和四三年一二月二七日被告県知事は市農業委員会から本件土地を含む所管換をすべき土地の通知を受理し、昭和四四年一月七日農林省(中国四国農政局長)にその旨を進達した。

(二) 同局長は同年二月二五日被告県知事に対し同年三月一日付で右土地等を大蔵省から農林省へ所管換えし、農地法三六条一項の規定に基づく売渡をするものの指定を通知し、市農業委員会は同年同月一日被告県知事からその旨の通知を受け、同月三日右指定があつた旨を公示した。

(三) 市農業委員会は同年三月一九日本件土地につき永井譲と原告からの買受申込書を受理し、同月二四日会議を開き、本件土地の買受申込につき永井譲を売渡の相手方と決定し、原告の買受申込につき農地法三八条の規定に基づき、被告県知事に対し売渡の相手方として進達しないこととし、同月二六日原告に対し進達しない旨の通知書を送付した。

(四) 被告県知事は同年三月二七日市農業委員会から永井譲を売渡の相手方とする進達を受けるとともに、その翌日原告の買受申込につき進達しない旨の通知を原告に対してしたことの報告も受けた。

(五) 被告県知事は同年三月二九日付で農地法三六条の規定により本件土地を含むP地区の土地につき市農業委員会の進達とおり売渡処分をし、市農業委員会は同年三月三一日本件土地等に関する売渡通知書謄本を公示した。

五  第二順位の訴の請求原因に対する被告県の認否

1(一)  請求原因1の(一)の事実中、市農業委員会が被告県知事に対し原告を本件土地の売渡の相手方として進達しなかつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  同1の(二)の事実中、市農業委員会の委員が国の公権力の行使に当たる公務員であることは認めるが、被告県が費用負担者であることは否認する。

(三)(1)  市農業委員会は農業委員会等に関する法律(ただし昭和五一年法律第六五号による改正前のもの・以下農業委員会法という)三条一項本文により被告市に置かれる機関であるから、農業委員会の事務を行うために要する経費は地方財政法九条本文の規定により本来被告市が直接負担すべきものである。

(2)  しかし地方財政法九条ただし書、一〇条一二号の規定により右経費の全部又は一部を国が負担するものであり、農業委員会法二条一項は国は毎年度予算の範囲内で農業委員会の委員及び職員の経費を負担すると定められている。

(3)  農業委員会法は経費の負担について具体的な規定は設けておらず、その負担の形態は所管行政庁の裁量に委ねられている。そして農林大臣は補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下補助金等適正化法という)二条四項にいう間接補助金等を、同条項の前提とする間接補助方式により負担するものとして農業委員会等補助金交付要綱(昭和三八年四月一日付三八農政A第五六四号農林事務次官依命通達)を定め、右要綱の定めるところにより、被告県が被告市に対し経費について補助する場合、当該補助に要する経費について、被告県に対し、補助金を交付している。

(4)  被告県は右に対応し補助金等適正化法二条三項にいう補助事業者等として鳥取県補助金等交付規則及び鳥取県農業委員会補助金交付要綱を定め、経費について補助金等適正化法二条六項にいう間接補助事業者等としての被告市に対し、同法二条四項にいう間接補助金等としての補助金を交付している。これは国から被告県に対し交付される補助金を財源として同法二条四項にいう国からの補助金の交付の目的に従つてなされるものである。

(5)  このように、国は農業委員会法二条に規定する負担義務を履行しているが、被告県は、国が前記のとおり経費の負担につき間接補助方式を採用し、国から被告県へ、被告県から被告市へという経路をたどつて、経費の負担義務を履行するに際し、形式的にその一部門に関与しているにすぎず、実質的には国が経費の負担者である。したがつて形式的な関与者にすぎない被告県は国家賠償法三条一項に規定する費用負担者に該当しない。

2  同2は争う。

六  第二順位の訴についての被告県の抗弁(消滅時効)

1(一)  仮に原告の被告県に対する損害賠償請求権が成立するとしても、原告は遅くとも、昭和四四年三月末ころまでに加害者及び損害を知つたのであるから、同年四月一日から三年間経過したことにより消滅時効が完成した。

(二)  原告が加害者を知つたいきさつは次のとおりである。

(1) 原告は地元有力者の一人として本件土地を含む付近一帯の土地について大蔵省から農林省への所管換及び右土地の地元農民への売渡に尽力した。

(2) 本件土地については、原告のほかに永井譲らが買受申込をした。

(3) 三軒屋部落では、本件土地を、その共同作業場用地として確保することを計画したが、農地は団体への売渡が原則として認められていないので、個人名義で買受申込をした。

(4) 部落の役員及び市農業委員会の委員が中心となつて、原告に対し何回となく買受申込を断念ないし撤回するよう説得した。

(5) 市農業委員会は被告県知事に対し原告を本件土地の売渡の相手方として進達しなかつた。

(6) 原告は市農業委員会から昭和四四年三月二六日付通知書で本件土地につき売渡の相手方として進達されなかつたことを知り、かつ永井譲が本件土地の売渡を受けたことを知つた。

2  仮に原告が右通知書を受領していなかつたため、昭和四四年三月末ころまでに加害者及び損害を知らなかつたとしても、同年夏ころまでに、市農業委員会で、原告が売渡の相手方として進達されず、本件土地の売渡が受けられなくなつたことを確認した。したがつて同年夏ころから三年を経過した昭和四七年夏ころまでに消滅時効が完成した。

3  被告県は本訴で右各消滅時効を援用した。

七  (第二順位の訴の請求原因で引用されている)第一順位の訴の請求原因に対する被告市の認否

1  第一順位の訴の請求原因1の事実は認める。

2(一)(1) 同2の(二)の(1)の事実は認める。

(2) 同(二)の(2)の事実は認める。

(3) 同(二)の(3)の事実は不知。

(4)(イ) 同(二)の(4)の(イ)の事実は不知。

(ロ) 同(4)の(ロ)の事実中、原告が市農業委員会に本件土地についての買受申込書を提出したことは認めるが、その余の事実は不知。なお右書面の提出日は昭和四四年三月一九日であつた。

3(一)  同3の(一)の事実は否認する。

(二)  同3の(二)の事実中、各書類の記載内容は認める。

(三)(1)  同3の(三)の(1)の事実は否認する。

(2)  同(三)の(2)の事実中、渡辺幸栄ら三名が買受申込をし、その後それを取り下げたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(3)  同(三)の(3)の事実中、永井譲名義の買受申込書が市農業委員会に提出されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(4)  同(三)の(4)の事実は否認する。

(5)  市農業委員会は被告県知事に対し永井譲を売渡の相手方として適法に進達した。

八  第二順位の訴の請求原因に対する被告市の認否

1(一)(1) 請求原因1の(一)の事実中、市農業委員会が被告県知事に対し、原告を本件土地の売渡の相手方として進達しなかつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(2) 本件処分は適法であり、本件土地を原告に売り渡すことは著しく公平の原則に反する。すなわち、

(イ)  本件処分は農地法三六条一項三号の規定に基づく売渡処分であるが、この処分をするかどうかは処分権者の自由裁量に属する事項である。

(ロ)  原告に本件土地を売り渡さなくても、当不当の問題が生ずるにすぎない。

(ハ)  AP地区内の土地の買受希望者が多く、これを収拾するため、市農業委員会は、P地区については三軒屋部落に、A地区については麦垣部落(鳥取県境港市小篠津町内の一部の地区)にそれぞれ買受計画をたてさせ、各部落内で話し合いのうえ、買受希望者を絞り、各部落がとりまとめて買受申込をさせるなどして買受申込そのものが事実上制約されていた。

(ニ)  本件土地を原告に売り渡すことは、右の制約により、買受申込すらできなかつた他の買受希望者と比較して、原告だけに利益を与えることになり、AP地区内の土地の売渡処分を受けた七〇名の中でも、原告が六番目に多い合計三四八六平方メートルの土地の売渡処分を受けているのであるから、公平の原則に反することになる。

(二)(1) 同1の(二)の事実中、市農業委員会の委員が国の公権力の行使にあたる公務員であることは認めるが、その余の事実は否認する。

(2) 事実上被告市が費用を負担していたとしても、それは補助金類似のものであつて、国家賠償法三条一項に規定する費用の負担とは異なる。

2 同2は争う。

九  第二順位の訴についての被告市の抗弁(消滅時効)

1  前記六の12の事実と同じ。

2  被告市は本訴で右各消滅時効を援用した。

一〇  被告県、被告市の抗弁に対する原告の認否

1(一)  前記六の1の(一)の事実は否認する。

(二)(1)  同1の(二)の(1)の事実は認める。

(2)  同(二)の(2)の事実は認める。

(3)  同(二)の(3)の事実は否認する。

(4)  同(二)の(4)の事実は否認する。

(5)  同(二)の(5)の事実は認める。

(6)  同(二)の(6)は認める。

2  同六の2の事実は否認する。

3  市農業委員会の進達手続中で、どのような違法行為が行われたか、誰が法律上の賠償責任の主体になり得るかが明らかになつたのは、本件で証人中井茂の取り調べが行われた昭和五四年五月一七日である。

第三証拠〈省略〉

理由

第一(第一順位の訴についての原告の無効確認の利益について)

一  被告県知事が昭和四四年三月末ころ市農業委員会の農地法三八条の規定による進達に基づき本件土地につき、売渡の相手方を永井譲、売渡期日を昭和四四年三月一日とする同月二九日付売渡通知書を同人に交付して売渡処分をしたことは当事者間に争いがない。

二  原告は本件土地につき使用貸借に基づく権利を有し、これを耕作に供していたので、農地法三六条一項一号に規定する売渡の相手方となる適格を有していることを事由として、本件処分の無効確認を求める法律上の利益を有していると主張している。以下この点について検討する。

1  旧四二五三番、旧四二五四番の各土地が存在し、原告が旧四二五四番の土地を小作していたこと、国が昭和二五年五月一日旧四二五三番の土地を松本辰郎に対し、旧四二五四番の土地を原告に対しそれぞれ自創法四一条の規定により売り渡したが、昭和二八年三月二四日右各土地を駐留軍基地施設用地とするため買い受け、同日大蔵省名義に所有権移転登記を経由したこと、そして右各土地につき別表のとおり分筆登記が経由されたこと、このうち旧四二五三番二、旧四二五四番二の各土地については、昭和四四年三月一日の所管換を原因として、昭和四八年六月六日農林省名義への登記名義人表示変更登記が経由されたこと、右各土地の登記簿は別表のとおり閉鎖されたこと、国が右各土地を一団として、本件土地として表示し、昭和四八年九月一九日農林省名義に所有権保存登記を経由したこと、旧四二五三番、旧四二五四番の各土地を含む周辺一帯が昭和二八年以前に駐留軍によつてA地区とP地区に分けられ、駐留軍の基地施設用地となつていたこと、右各旧土地はP地区内に存在していたこと、しかし国は右各土地の買い受け後、そのうち旧四二五三番二、旧四二五四番二の各土地を現実に使用していなかつたことは当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第一ないし第五号証、第一一号証、第一四号証の一、二、乙第四号証、第六号証、第七号証、第八号証の一ないし三、証人永見元の証言、原告本人尋問の結果によると、国が旧四二五三番、旧四二五四番の各土地を買い受けた後も、原告が旧四二五四番二の土地の耕作を続け、旧四二五三番二の土地も亡松本辰郎の妻の承諾を得て耕作したこと、地元農民が駐留軍の引揚後の昭和三七年ころからAP地区の土地の売渡を調達庁等へ陳情し、市農業委員会も右の趣旨を採択したことは認められるが、原告主張のとおり本件土地の使用貸借につき、呉調達局、中国財務局鳥取財務部の担当官の承諾及び被告県農務部の担当官の指示を受けたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

3  したがつて、原告は農地法三六条一項一号に規定する買受申込適格者に該当するということができないので、かかる買受申込適格者であることを事由とする無効確認の法律上の利益を有しないというべきである。

三  次に原告は同条一項三号に規定する売渡の相手方となる適格を有していることを事由として、本件処分の無効確認を求める法律上の利益を有していると主張しているので、この点について検討する。

1  同号の規定に基づく売渡処分の相手方の決定は、被告県知事、進達事務を扱う市農業委員会の政策的、技術的考慮に基づく判断に委ねられており、その自由裁量に属するものであると解することができる。しかし当該土地を国に売渡した前所有者は、右土地を再び買い戻すことにつき利害関係を持つているのが通常であり、市農業委員会及び被告県知事は同号に規定する売渡の相手方を決定するにあたつては、これらの事情をも考慮すべきものであると解すべく、当該土地につき、以前所有権、耕作する権原等を有しなかつた第三者に比較すれば、当該土地の買受を期待する度合が強く、かつ同号の規定に基づき買受申込をしたのにかかわらず、農業委員会によつて競合する他の買受申込人が売渡の相手方として、県知事に進達され、自己が進達されなかつたときは、前所有者らは同号に規定する他の要件を具備する限り、他の者に対してなされた売渡処分の無効確認を求める法律上の利益を有するものと解するのが相当である。

2  これを本件についてみるに、原告は本件土地のうち旧四二五四番二の土地については、もと所有権を有していたが、これを駐留軍基地施設用地として、国に売り渡したこと、しかし右土地が駐留軍によつて、現実に使用されていなかつたので、事実上右土地を耕作していたことは前記のとおりである。そして原告が市農業委員会に本件土地の買受申込書を提出したことは当事者間に争いがなく、その提出日は成立に争いのない乙第三号証の三によると、昭和四四年三月一九日であつたことが認められる。さらに原告本人尋問の結果によれば、原告は自作農であつて農業に精進する見込がある者であることが認められる。しかし市農業委員会は本件土地の買受申込人である永井譲と原告のうち前者だけを売渡の相手方として被告県知事に進達したことは当事者間に争いがない。

3  以上の事実によれば、原告は本件処分の無効確認を求める法律上の利益を有するものというべきである。

(なお被告県知事は本件土地は宅地化されているので、農地法三六条に規定する農地でなくなつたと主張している。前掲の甲第五号証、証人井田忠秋、同足立斉、同永井謙、同中井茂の証言及びこれらにより真正に成立したものと認められる乙第五号証の一、本件土地の状況の写真であることに争いがない乙第五号証の二ないし五、弁論の全趣旨によると、本件土地は昭和四九年八月七日永井譲から井田忠秋に譲渡され、同人が本件土地上に昭和五二年に建物二棟(居宅木造瓦葺二階建延べ床面積約二〇〇平方メートル・倉庫物置鉄骨造亜鉛メツキ鋼板葺平家建約四〇〇平方メートル)を建築したことが認められる。しかし仮に本件処分が無効であるとすれば、井田忠秋も本件土地の所有権を取得できなくなり、この場合には、本件土地を原状に回復する義務があるものというべく、しかも右事実によれば本件土地を原状に回復することは著しく困難であるということもできない。したがつて本件土地は現状では宅地であるが、将来農地に回復することが可能であるというべきであるから、同法三六条一項に規定する土地に該るものというべきである。)

第二そこで本件処分の無効原因について判断する。

一  (買受申込人の瑕疵及び市農業委員会の進達手続の瑕疵の有無について)

1  前掲の甲第一一号証、第一四号証の一、二、乙第八号証の一、二、成立に争いのない甲第一〇号証、第一四号証の三ないし五、乙第一号証、第三号証の一ないし四、証人足立斉、同中井茂(一部)、同永井謙、同永見元、同池田喜春の各証言、原告本人尋問の結果(一部)、これらにより真正に成立したものと認められる甲第七ないし第九号証、弁論の全趣旨によると次の事実が認められる。

(一) 昭和四一年ころからAP地区の土地の旧所有者及び旧耕作権者らは農林省に対し右土地を農地として売渡すよう陳情した。

(二) 被告県知事は昭和四三年一二月二七日市農業委員会からAP地区内の土地等について、大蔵省から農林省へ所管換をするのを相当とする旨の通知を受理し、昭和四四年一月七日農林省(中国四国農政局長)にその旨を進達した。同局長は同年二月二五日被告県知事に対し、同年三月一日付で右土地等を所管換えし、農地法三六条に基づく売渡をするものと指定する旨通知した。市農業委員会は同月一日被告県知事からその旨の通知を受け、同月三日右指定があつた旨を公示した。

(三) 三軒屋部落居住の農民の多くは、P地区内の土地を国によつて買い取られたものであつた関係で、P地区内の土地を他地区に居住する農民より優先して、国から売渡を受け、かつ三軒屋部落の農民もその買受を希望していたので、その希望者の中から一人を買受申込人として選出することなどの活動、協議をするため、対策委員会を設けた。対策委員会は農民からの買受希望に基づき、各希望者にP地区内の土地を予め割り当て、その割当に従つて、各希望者は対策委員会に買受申込書を預け、対策委員会はそれを一括して市農業委員会へ提出した。なおA地区内の土地は麦垣部落に存在していたことから、同部落に居住する農民で構成された対策委員会は右土地の大部分が同部落の農民へ売り渡されるよう市農業委員会等へ陳情した。

(四)(1) 原告は、戦前には鳥取県境港市中浜村大字小篠津一二七二番一に居住し、麦垣部落に属していたが、その後肩書住所地へ移転した。しかし原告は旧四二五四番二の土地を継続して耕作していた。

(2) 原告は昭和四一年ころ本件土地のうち旧四二五四番二の土地の県道側に防風のため松約五〇本を植え、本件処分後にも、松約五〇本を植えた。

(3) 原告は本件土地全部の買受を希望したが、このうち旧四二五三番二の土地部分はもと松本辰郎の所有のものであつたので、右土地についても買受申込をするにつき右松本の相続人の同意を得、その代償として他の土地を同人に譲渡することを約束したうえで、市農業委員会に本件土地についての買受申込書を提出した。

(五) 三軒屋部落の対策委員会は本件土地を同部落の農民をもつて構成する実行組合の共同集荷場用地として使用することを決め、当時の組合長永井謙はその趣旨に従つて、本件土地の買受申込をし、売渡を受けたときは、実行組合に所有権を移転することを承諾した。ただ同人方では、永井謙の子の永井譲が自作農として農業に従事していたため、永井謙は永井譲からの黙示による包括的な承諾のもとに、永井譲名義で市農業委員会へ本件土地の買受申込書を提出した。なお原告は当時右永井両名の身分関係を知つていた。

(六) 市農業委員会は国の所轄官庁にAP地区内の土地の売渡のための所管換を陳情していた当時から、すでに右土地が国によつて駐留軍の基地施設用地として買い上げられたいきさつなどを考慮し、P地区内の土地を三軒屋部落の農民に、A地区内の土地を麦垣部落の農民に売渡されるよう配慮する旨の基本方針を決めた。

(七) 市農業委員会の委員のうち三軒屋部落に居住していた足立斉、足立重徳は同委員会の基本方針と三軒屋部落の農民の意向を受け、同委員の渡辺勇らを介して、原告に対し右買受申込を撤回するように交渉した。その交渉の過程で、同人らは原告に対し次のような内容の提案をした。すなわち、将来、本件土地を三軒屋部落の共有地とする目的で、実行組合長の永井謙が本件土地を買い受けること、本件土地は同部落の共同施設用地として利用すること、原告は本件土地についての一切の権利を放棄すること、右施設を設置するまでの間、原告は右組合長の同意を得て、耕作できること。しかし原告はその提案に同意しなかつたが、その後三軒屋部落の実情を了解し、右永井謙との間で、原告の買受申込は撤回しないが、もし永井謙の買受申込に従つて、市農業委員会が同人を売渡の相手方として被告県知事に進達し、同人に本件土地が売り渡されたとしても、右土地が実行組合のために使用される限り、異議の申出はしないこと、実行組合が本件土地を第三者に処分するときは、原告に対し優先的に売り渡す旨合意した。

(八) 市農業委員会は昭和四四年三月二四日会議を開き、本件土地についての買受申込人二名のうちいずれの者を売渡の相手方として被告県知事に進達すべきかについて審議した。これより前に、市農業委員会委員の足立斉、同足立重徳らは他の委員に対し三軒屋部落の農民である永井譲に、本件土地が売り渡されることに、同部落の農民の意見が一致している旨を説明した。そこで同委員会は、基本方針とおりに、永井譲を売渡の相手方として進達する旨、及び原告を売渡の相手方として進達しない旨を決議した。なお市農業委員会の委員二二名のうち、永井譲が買受申込をした事情について知つていたものは、足立斉、足立重徳、渡辺勇、中井茂であつた。

(九) 市農業委員会は同月二六日原告にあてて、右のとおり進達しない旨を記載した通知書を発送し、その書面がそのころ原告に到達した。

(一〇) 原告は前記(七)の合意の趣旨と異なつて、本件土地が永井譲から井田忠秋に譲渡されたことを知つた後に、本件第一順位の訴を提起した。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告本人、証人中井茂の各供述部分はたやすく信用できず、そのほかに右認定を動かすに足りる的確な証拠はない。

なお足立斉、足立重徳、渡辺勇、中井茂の各委員を除くそのほかの委員が「本件土地が永井譲から実行組合に移転され、実行組合のための共同施設用地にあてられること」を知つていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

2  右認定事実によると、自作農であつた永井譲は市農業委員会に本件土地の買受申込書を提出したものの、右土地を自ら耕作する意思を有せず、右申込に従つて、右土地の売渡を受けることができたとしても、実行組合の所有にさせる意思をもつていたものと認められ、これを看過してなされた本件処分には重大な瑕疵があつたものというべきである。しかし前記認定事実によれば、本件土地の周辺に居住する自作農であつた永井譲は、右土地を自ら耕作し、農業に精進する外観を呈していたものであり、前記の四名の委員を除くその余の委員は永井譲の買受申込の真意を知らなかつたものと認められ、さらに買受申込の一件書類に、永井譲の真意を推測できるような資料があつたことを認めるに足りる証拠もない。したがつて、本件処分の右瑕疵は明白であるとはいえないので、本件処分を無効と解することはできない。

二  (売り渡すべき土地の特定の瑕疵の有無について)

1  市農業委員会から被告県知事に提出された進達書類及び本件処分の売渡通知書には、売渡すべき農地の所在、地番、地目、面積が別紙目録のとおり記載されていたことは当事者間に争いがない。

2  前掲の乙第三号証の四によると、原告も本件土地の買受申込書に買受けるべき土地の表示の地番として、「四二五三番二」と記載していることが認められ、これに前記の事実を合わせ考えると、原告、永井譲及び市農業委員会、被告県知事はいずれも本件土地を特定するため、本件処分以前には、予定地番として「四二五三番二」を使用していたものと認められ、右地番によつて、本件土地は特定されていたものということができ、この点につき、原告主張の瑕疵があるということはできない。

三  してみると本件処分が無効であるということはできない。

第三(第二順位の訴について)

一  市農業委員会の委員が原告を売渡の相手方として被告県知事に対し進達しなかつた事実関係は前記第一、二の事実(このうち原告と被告県知事との間で争いのない事実は原告と被告市との間でも争いがなく、また前記第一掲記の書証については、原告と被告市との間でも、同様にその成立について争いがない)のとおりであり、その余の原告の主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

二  そこで、まず消滅時効について判断する。仮に右事実関係から右委員が違法に職務を行い、原告が本件土地の所有権を取得できなかつたことによる損害を被り、被告県、被告市が費用負担者であるとしても、前記の事実のように、市農業委員会が売渡の相手方として、永井譲を進達し、原告を進達しないことを決議し、原告は進達されない旨の通知書を昭和四四年三月末ころ市農業委員会から受領したこと、原告は、それ以前に、実行組合が本件土地の所有権を取得して使用するため、永井謙が本件土地の買受申込をすること、実際に買受申込した永井譲は永井謙の子であることを知つていたこと、原告は市農業委員会の委員から買受の申込を撤回するよう交渉を受け、永井謙との間で、同人が本件土地の売渡を受けることを前提とする約束を結んだこと等を総合すると、原告は、右通知を受けたとき、売渡の相手方として進達されなかつたのは、右委員が違法に職務を行つたことによること、及び本件土地の所有権を取得できなくなることにより損害を被ること、並びに加害者は市農業委員会の委員であることを知つていたものと推認することができる。

三  すると、損害賠償債権の消滅時効期間の起算日は昭和四四年四月一日であるというべく、この日から三年を経過したことは明らかであるから、すでに右時効が完成したものということができ、本訴で被告県、被告市が消滅時効を援用していることは明らかである。

四  よつて原告の第二順位の訴の請求は失当というべきである。

第四以上のとおり原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鹿山春男 奥田孝 辻本利雄)

目録及び別表〈省略〉

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